時間が潰せたらそれでよかった

空き缶、飲みかけのペットボトル、積み重なって埃の積もった大学のテキスト…。

大学生までの僕はほんとうに部屋の片付けが苦手でして、正直なにをどう片付けしたら良いのか全く分かっていませんでした。

そもそも、モノに溢れていることや、床が散らかっていることに、なんの疑問も抱いていなかったし、それが当たり前だとさえ思っていました。

イームズハウスとの出会い

大学2生の頃の話しですが、課題のために大学で友人と待ち合わせをしていて、電車が止まってしまって遅れて来るというので、扉の開いているテキトーな教室に潜り込んで講義で暇を潰そうと思いました。いくつか見て回ったあとで、なかでもみんなが一番眠そうにしている教室を見つけたので、大講堂でやっていた建築系の講義に忍び込むことにしました。

正直、他学部の講義になんて興味は無かったし、時間が潰せたらなんでも良いと思っていた僕は、大講堂の一番うしろの席で、なんとなく講義を聞いているフリをしていました。すると、黒板の横の大きなスクリーンに不思議なデザインの家が映っていることに気がついたのです。どうやらそれは『イームズハウス』という家だそうで、僕はそのとき衝撃を受けたんです。

イームズハウス(Eames House)はアメリカの有名なデザイナーであるチャールズ・イームズ(Charles Eames)とレイ・イームズ(Ray Eames)が1949年に建築した住宅です。正式名称は「ケース・スタディ・ハウス #8」(Case Study House #8)とも呼ばれます。この家は、モダンデザインとイノベーションにおける重要なシンボルの1つとされており、今もカリフォルニア州ロサンゼルスにあります。結構有名な家なので、建築に興味のないひとでも、この家のデザインは一度は見たことがあるんじゃないでしょうか。

結局、その講義が終わるまでの90分間、僕は釘付けになって講義を聞いてしまったので、後から到着して待たされていた友人には申し訳ないことをしました。

あのときの衝撃をうまく言葉で表すことはできませんが、とにかくそのときは純粋に「こんな家に住みたい!」と思ったわけです。とはいえ家を買うわけにもいきませんので、こつこつと家具を集めたり棚を作ったりしながら、少しづつ今住んでいる空間を雰囲気だけでも変えて行こうと考えたのでした。本業の勉強もしつつ、その傍らで「片付けについての本」や、「インテリアデザインの本」を片っ端から読み漁ったのを覚えています。

4S(整理・整頓・清掃・清潔)

しかし、そもそも片付けができない、なんの知識もノウハウもない男子学生に素敵な空間が作れるはずもなく、最初の3年くらいはとにかくモノを減らすことに専念していました。その後大学を卒業して、食品メーカーに就職しましたがこれが好都合でした。そこでは品質保証の仕事を5年ほどやりましたが、製造工程の4S活動に関わっていたので、4S(整理・整頓・清掃・清潔)のノウハウをまるっとまるごと学ぶことができてしまったわけです。

僕が学んだ4Sはこんな感じ(会社ごとに違うようです)。

1.整理‐必要なものと不要なものが識別されていること
2.整頓‐必要なものが、必要なときに、必要な分だけ取り出せるようにすること
3.清掃‐清掃道具がつかう場所ごとに配置され、いつでも使えること
4.清潔‐無理のない清掃スケジュールが決められており常に維持できていること

取り出し工数を考慮したモノの住所の決め方

これに加えて、取り出し工数の削減や、モノに住所を与えると良いということを知りました。取り出し工数の削減とは読んで字のごとくですが、何かモノを取り出そうとするときの手順を減らすことです。例えば、本を本棚から取り出すのに、いくつものドアや戸棚を開け閉めしなければならないとなったら、めんどくさくなって諦めてしまいますよね。なので、取り出す・しまうは、極力ワンアクションで行えるように置き場所を工夫します。

また、モノに住所を与えるとは、どんなに取り出し工数が少なくても、モノの場所が決まっていなければいつかは秩序が崩壊してしまいます。なので、コップ1個、リモコン1個、えんぴつ1本に至るまで、モノには置き場所(住所)を決めておくのです。基本的に、モノの住所は取り出し工数を考慮して決めていきます。ちなみに、取り出し工数を考慮したモノの住所の決め方には以下のようなものが考えられます。

⇩取り出し工数を考慮したモノの住所の決め方案⇩

【シャツは畳まず、ハンガーに掛けてハンガーラックにしまう】
洗濯して乾燥が終わった衣類をひとつひとつ畳んで戸棚にしまう作業というのはめんどくさいし時間がかかります。なので、よく使うものに関しては、ハンガーに掛けるなどしてハンガーラックにしまう方が効率が良いです。

【リビングで読む雑誌はリビングへ、寝る前に読む小説は寝室に置く】
本は本棚にしまうのが普通ですが、本棚が1つしかない場合、読む場所ごとに置き場所を決めた方が効率的です。毎晩リビングから持ち出して、朝起きたらリビングへ戻すというのはめんどくさいですからね。

【テレビのリモコンはソファーの右側に置く】
右手で使うものは右側へ配置するというのも手だと思います。左側に置くと戻すのがめんどくさくなります。

【エアコンのリモコンは部屋の入口のカギ置き場の横に置く】
外出するときになって、エアコンを切り忘れた!ということは良くあると思います。エアコンを切るためにわざわざ部屋の奥まで戻るくらいなら、入口付近に配置しておいた方が効率的です。

【下着はクローゼットではなくバスルームの近くの棚にしまう】
たまに、衣類はなんでもクローゼットにしまうという人もいますが、すぐ使うものはすぐ使う場所の近くに配置した方が効率的です。

【筆記具はメモ帳とセットで置く】
いざ必要になったときに、メモ帳はあるけどえんぴつが見当たらないということを防ぎます。

コンタクトレンズのストックは洗面台に置く】
洗面台でつかうものは、洗面台で保管するのが効率的ですし、特にストックは複数種類をまぜるより、一か所につき一種類をまとめた方がわかりやすいです。奥の方にひとつ残っていて、買わなくてもよいものを買ってしまったということを防げます。

あの日から10年…。

さて、それから5年目にようやく片付けができるようになって、片付いた部屋を維持できるようになって、そしてあの日から10年が経ちました。この10年で転職も引っ越しもうつ病も経験して、恋もしたしフリーランスにもなったし、いろいろなことを経験して来ましたが、変わらずこの部屋の環境だけは、今日まで維持し続けて来ました。そんな10年目のおきもちハウスがこちらです。おしゃれな部屋とは言えませんが、少なくとも整理整頓は徹底して維持できています。

おきもちハウス 写真2023年

これを見て思うことは、いつのまにかイームズハウスとはかけ離れた空間になってしまったということと、それはともかく、あんなに片付けが苦手だったじぶんがよくここまで変わったなと、感慨深く思うわけです。もう10年も前に始めたことなので、イームズハウスを参考にして始めたなんてことはすっかり忘れていました。でも、今日そのことを思い出したので、また少しづつ初めていこうかなと思います。まずは、イームズバードを探すところからかな…。

このブログを書きながら、掃除機掛けがしたくなったのは言うまでもありません。

ご清覧いただきありがとうございました。

以上、次は月曜日に!